Deconstructing the spay / neuter debate
「不妊去勢手術」議論についての考察
「不妊去勢手術の健康への影響」を懸念する声に、どう対処すべきか。
フィリップ・A・ブッシュビー(獣医学博士・科学修士・米国獣医外科学会認定専門医)
アニマルシェルタリング・マガジン 2020年夏号
要約
解説
猫の手術時期について、当会の主張を理論づける内容となっており強く支持します。
犬に関しては、犬の過剰繁殖問題もまた近年顕著であることから、犬の置かれている状況を十分に考慮した上で、Bushby教授が一覧にまとめた分類を原則支持しながら、今後国内において臨床獣医師が広く議論することが必要だと考えます。
動物福祉分野では、ここ数十年間で、早期不妊去勢手術の先駆的な手技も確立され、全米の動物シェルターでは「譲渡前不妊去勢手術」が当たり前に行われるようになり、全米の安楽死件数は劇的に減少してきました。
犬猫の不妊去勢手術には明らかにメリットがあるとされる一方で、不妊去勢手術の時期を遅らせるか、あるいは、やめてしまうべきだと主張する獣医師がいます。
獣医師であり動物福祉専門家でもある我々の立場から、動物への最善策をどう選択し、混在する情報に戸惑う飼い主にどのように伝えていけばよいのでしょうか。
不妊去勢手術論争ではありがちですが、不妊去勢手術を行うか否かの判断は、ごく一部の疾病との関係性だけに着目するのではなく、動物の健康・寿命を総合的に鑑みた上で議論されなくてはなりません。カリフォルニア大学デービス校獣医学部による研究においては、不妊去勢手術に伴い特定の疾患の増加の可能性が指摘される傾向にありますが、我々はその疾患の発症率を必ず考慮しなければならず、何故、より一般的な疾患の発症件数が減少しているにもかかわらず、珍しい疾患を発症する潜在的なリスクばかりが強調されてしまうのか、その点を説明できるようにしておく必要があります。更に、これらの研究は、コントロール(制御変数)が制御されておらず、研究対象に偏りがある等の問題点が指摘されており、これをもって不妊去勢手術の是非を問うには、根拠が十分ではありません。
ある犬種(特に大型犬)における、特定の腫瘍や整形外科疾患の発症率の上昇は、不妊去勢手術と関係性があることが証明されています。また、特に早期に行う不妊手術がメス犬及びメス猫における乳腺腫瘍の発症率を著しく下げることや、不妊去勢手術を受けた犬及び猫の方が一貫して長生きをするということも証明されています。不妊去勢手術を施すことによって、全米のシェルター引取り数や犬猫の安楽死件数が、ゆっくりですが確実に減少するということも重要な事実です。
不妊去勢手術を行うかどうか、またその時期についての判断は、まず第一に、その動物の生活環境(飼われているか否か)に基づいて行わなければなりません。そして第二に、繁殖環境と健康状態、寿命との関係性について既に明らかになっている見解を参考にして行わなければなりません。飼い犬については、犬種・繁殖環境・手術の目的・最新医療知識を考慮に入れた情報を飼い主に提供した上で、判断を仰がなければなりません。多くの犬種で、初回発情前に不妊手術を行えば乳腺腫瘍の予防効果が得られ、これは、乳腺腫瘍以外の腫瘍や整形外科疾患の潜在的な発症リスクをはるかに上回るメリットがあります。現在判明していることを基にした推奨事項は以下の通りです。
- ・シェルターの動物:譲渡前に不妊去勢手術を行う。生後6週齢から。
- ・地域猫:TNR(捕獲・不妊去勢手術・元の場所へ戻す)を生後6週齢以降適宜。
- ・飼い猫:生後5か月齢までに不妊去勢手術を行う。
- ・飼い犬 メス:生後5か月齢までに不妊手術を行う。
- ・飼い犬 室内飼い 大型犬 オス:整形外科疾患の懸念により、骨成長が終了する生後15~18か月齢以降に去勢手術を行う。
- ・飼い犬 外飼い 大型犬 オス:過剰繁殖の懸念により、生後5か月齢までに去勢手術を行う。
- ・飼い犬 小型犬 オス:現時点では整形外科疾患に関する懸念は確認されていないため、性成熟期(生後5か月齢)までに去勢手術を行う。
不妊去勢手術の影響については、まだ解明されていないことがたくさんあります。そのため新しい情報を常に仕入れ、必要に応じて認識を改めていく必要があります。それと同時に、新しい情報に対しては、それが研究データに基づく妥当なものであるかどうか、厳しい目をもって評価する積極的な姿勢が求められます。