Spay Vets Japan | スペイ ベッツ ジャパン | 繁殖予防に特化した早期不妊去勢手術専門の獣医師団体

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論文|スペイ ベッツ ジャパン
Researches and Studies
調査研究
Pointing the way with a pyramid
ピラミッドで示す、
保護活動における優先順位
最も効果的な猫保護活動者の時間と活動資源の割り振り方
ダニエル・ジョー・ベイス著
アニマルシェルタリングマガジン 2018 - 2019冬号
全文
ピラミッド
解説
日米の動物問題をめぐる対応のサービスインフラ・文化および社会構造的背景の違いはありますが、不妊去勢手術が行き届いていない飼い猫による繁殖問題・飼育放棄・遺棄問題は全国的に頻発していることからも、当該記事の指摘は妥当であると考えます。最も注目と称賛が浴びせられる「終生飼養施設の建設」や「保護・譲渡活動」ですが、設備的・人的・予算的キャパシティーには限界があります。地域の需要に応じた適切なサービスの供給と力・財源の配分を分散することが必至であると説くこの記事は、とても興味深いものです。特に、手術浸透率の低い地域では飼い猫への繁殖制限、特に早期不妊去勢手術を安価に高回転で実施されることが最も有効であると考えます。
猫の保護活動関係者は皆できるだけ多くの猫を助けたいと考え、保護・譲渡から不妊去勢クリニック・TNR(捕獲して不妊去勢手術を行い元の場所に戻す)に至るまで、目的達成のための様々な戦略を実施しています。
しかし、こうした戦略はすべて同等に効果的なのでしょうか。それぞれの活動に均等に時間をかけるべきでしょうか。
今年ステイシー・ルバロン氏はこの問題について考えを巡らせていました。その傍ら、彼女は自らの健康についても考えていました。様々な食事療法を調べているとフードピラミッド(栄養摂取ガイドライン)が頻繁に出てきました。フードピラミッドは献立に使う種々の食品群の比率を示した三角形のイラストで、いたるところで使われているものです。
そしてルバロン氏は、「最終目的が野良猫の個体数の削減なら、その目的に向けた最善と考えられる活動時間の使い方」を分かりやすく視覚化したツールが、猫の世界にも必要であることに気づきました。フードピラミッドに着想を得た彼女は「コミュニティキャット・ピラミッド」を作成しました。この図ではピラミッドの各階の対象区分が食品群に相当し種類は広範です。正確な割合は示されていませんがひと目で内容がわかるようになっています。ピラミッドの一番下の枠に割り当てられる対象区分の活動時間はより多く設けられ、頂点の区分にいく程その活動時間は少なく設けられることを表しています。

ピラミッドの作成に際し、ルバロン氏は、メリマックリバー・フィーライン・レスキュー・ソサエティ(MRFRS:マサチューセッツ州のアニマルシェルター、TNRを牽引する団体として発足)の代表者として務めた14年の経験、全国の猫保護活動グループの指導に当たった経験やコミュニティキャット・ポッドキャスト(リンク参照)のホストとして行った200以上のインタビューを参考にしました。
90年代当時、MRFRSは譲渡センターと飼い猫対象の小規模な不妊去勢手術クーポンプログラムを実施していました。MRFRSが最前線で行うTNR活動によって子猫の引き取り数は減少しましたが、飼い猫に的を絞った積極的な不妊去勢手術を始めるまでは地域のシェルターに入る飼い猫(成猫)の数には効果が現れませんでした。
「どのコミュニティにも低料金で提供する不妊去勢手術が絶対に必要だと確信しています」と彼女は言います。そうした取り組みがピラミッドの土台に位置する対象区分になります。
ルバロン氏の考えでは、ピラミッドの上部に位置する対象区分に割り当てる活動時間が多ければ多いほど、その団体は「何かが起こる前に行動を起こす取り組み」ではなく「事後に対策を講じる取り組み」を講じていることになります。TNR活動とそれに似たRTF活動(日中うろつく人慣れした猫を対象に、捕獲・不妊去勢手術を行い野外に戻す)は、野良猫の個体群を安定化させ縮小させるために欠かせない活動ですが、「地域の猫」は迷子や遺棄された飼い猫やその子孫に由来しています。「TNR活動は人件費がとてもかさむことがある」とルバロン氏は主張します。「TNRは必要な活動です。しかし『遺棄された猫(ピラミッドの土台に位置する猫)が繁殖した結果』への対処として存在する事後的な活動なのです。ですので、土台部分で行動をおこせば、それだけTNR/RTFをしなければならない猫の数を減らすことができるのです。」

保護・譲渡活動は、ピラミッド内で占める割合はもっと小さく、優先順位は低くなります。更に、終生飼養施設の設置とリロケーションはピラミッドの頂点に位置し、割り当てるべき活動時間は最少で、優先順位は最下位です。飼い猫の数は概算で7千万匹(その内不妊去勢手術を受けていないものは7百万匹)、地域の猫は3~4千万匹(不妊去勢手術を受けたものはごくわずか)、シェルターに収容される猫は年間3~4百万匹という猫の全体数に照らせば、これは当然の結果です。
ルバロン氏にとってこのピラミッドは猫福祉政策の未来像です。現時点では多くのコミュニティが保護活動と終生飼養施設の設置に活動資源を大きく割いています。しかしそれは変わりつつあります。シェルターの統計値で達成度を測っていたコミュニティが地域全体の猫の数を見据えるようになってきたからです。
動物福祉に携わるグループに対しルバロン氏は、同一エリア内で活動する団体の活動実態を総合的視野で捉え、その配分をピラミッドに照らすことを勧めています。TNR活動だけを行う団体や保護・譲渡活動に特化した団体があるのなら、低価格で不妊去勢手術を提供する団体が他に必要だと彼女は説明しています。同様に、飼い猫を対象とした不妊去勢手術を実施する団体は十二分にあるものの、「地域の猫」を対象とした団体がほとんど存在しないのであれば、活動時間の大部分をTNR活動に集中させるべきです。 皆がすべて同じ目的やゴールを持つ必要はありません。しかし将来を見据え、限られた活動資源で、できるだけ多くの猫を助けられるような時間の割り振り方をする必要があるのです。
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