Spay/neuter tattoos can prevent unnecessary surgery for cats and dogs
不妊去勢済みのタトゥーで必要ない手術を防ぐ
ドクターメーガンメリオと友人
掲載日:2019年10月15日
解説
現在日本では、野良猫に不妊去勢手術を施した後、耳に人為的なカット(Vカット、フラットカット等)を入れる認識が浸透しつつあります。一方で、耳のカットのみを“術済み”の指標とすることは、カットの入れ方によっては時にケンカ傷との見分けがつきにくかったり、カットしていた耳自体が損傷して見分けがつかなくなってしまったり、はたまたカットを入れられずに野外を放浪する手術済み猫等が再度捕獲され、再度お腹を大きく開けて子宮と卵巣を探られる結果に繋がったり、年間数千頭の不妊去勢手術をするスペイクリニックでは、しばしばこのような事態に遭遇し、頭を悩ませています。
米国シェルター獣医師協会では、2010年より、「“手術済み”の指標として緑色の色素(通称タトゥー)を不妊去勢手術を終えた動物全てに入れること」を推奨しています。明確で半永久的なタトゥーは、手術済みの動物か否かをより確実に認識できることに繋がり、動物に対し不必要な苦痛を与えることもなくなります。
今回の記事は、米国におけるタトゥーの大学教育の実態と臨床現場での浸透率について調査された大規模研究発表の概要を紹介したものです。
Spay Vets Japanでは、この“術済みタトゥー”の文化を是非日本の皆様にも知っていただきたく、本記事を取り上げました。今後日本でも“術済みタトゥー”の認識が浸透していけば、動物にとっても獣医にとっても不必要な苦痛や手間に悩まされることが無くなるでしょう。是非ご一読ください!
不妊去勢済みの証として、地域猫に耳カットがされている、というのは皆さんもよく知っているでしょう。しかし、米国シェルター獣医師協会の「不妊去勢プログラムのための獣医療ガイドライン」では2010年から、「すべての不妊去勢済みのペットを識別するために、緑色で単線のタトゥーを使用すること」が推奨されているのはご存じだろうか。
不妊去勢手術済みを示すこのタトゥーは、シェルター間でさえあまり知られおらず、広く一般的にも利用されていないのが現状です。そのためミーガン・ミエロ博士は、マディーズ・シェルター・メディシン・インターンシップの研究プロジェクトとして、シェルター、スペイクリニック、獣医大学、民間の動物病院に対して、タトゥーの認知度や利用状況について調査を行いました。
ミエロ博士は言う。「ジュリー・レヴィ博士と私は、今年初めにこの研究を行うことに決めました。シェルター獣医の多くが、(結果、術済みとわかった)犬猫に手術をしてしまうことがかなりあることにストレスを感じている、と気づいたからです。この手術は”(無いはずの卵巣・子宮を)探す手術”となり、手技が複雑で長時間かかる上、その日の全体の手術の流れを妨げてしまいます。
さらに、「麻酔には常にリスクが、手術には痛みが伴います。ですから、不妊去勢手術済みの犬猫達にその負担がかからないよう、よい方法を見つけだすのは私たちの責任だと思います」と続けた。ミエロ博士は、10月11日にコロラド州デンバーで開催された2019年米国獣医師会シンポジウムで、シェルターでの獣医療を追跡した調査の一部としてこの結果を報告した。
【不妊去勢タトゥーの使用状況調査方法】
最初の調査では、米国とカナダの全 33 の獣医学部に対し、授業、外科研究室、臨床外科実習において、 学生にタトゥーに関する教育を行っているかどうかを調べました。2回目の調査では、民間の動物病院、動物保護施設、スペイクリニックで行い、飼い主のいる犬猫または保護施設の犬猫にタトゥーをする頻度やその他特徴について調査をしました。アメリカ全州より各々代表する動物病院から400以上の回答があり、アメリカとカナダの全獣医大学からも回答があった。
「どの学校でも、ある時点で学生たちにタトゥーや耳カットについて教えます。しかし、一つの学校内ですら全く一貫性がありません」とミエロ博士は言う。「例えば、必修の外科実習があり、学生はシェルターの動物に手術を行うので、タトゥーを入れることを教わる。しかし、外科の講義や教育病院での外科巡回では、タトゥーを教わることはありません。これでは学生は実に一貫性のないトレーニングをうけることになり、混乱を招きます。
【不妊去勢済みタトゥーの使用調査結果】
- ・調査結果の中で獣医学部の30パーセントが、必修の外科講義のカリキュラムにタトゥーが含まれていました。
- ・73%の獣医学部は、外科研究室では不妊去勢手術の指標となるタトゥーを必須としているが、教育病院の不妊去勢手術では30%のみだった。
- ・飼い主のいる犬猫の不妊去勢手術時にタトゥーを入れる民間の動物病院は、回答のあった病院中わずか5パーセントのみだった。しかし、飼い主のいない犬や猫の避妊去勢手術も行っている病院では11パーセントに上った。
1976年にはすでにAVMAは不妊去勢手術済タトゥーの重要性を認識していましたが、獣医学ではまだ一般的な手法にはなっていませんでした。「当時は、♂か♀のマークの上にXを入れた、とても大きなタトゥーを推奨していました。私たちが勧めている方法は、お腹に1.5センチの小さな緑の線を入れるだけです。体毛が元に戻れば、見えなくなります」。
【犬猫の不妊去勢タトゥーの例】
では、犬猫のタトゥーはどのようなもので、どこに入れるのが一般的なのか?ミエロ博士のカルテからいくつかの写真を紹介します。
ミエロ博士や他のシェルター獣医師も、保護施設に入る犬猫の不妊去勢手術の実施状況について悩まなくなる時がくればと願っている。「メスの犬や猫を開腹して、術済みだったとわかることが私自身にも時々あって、これが問題だということはよくわかっています。あるいは、お腹の毛を剃って、不妊手術の切開跡のようなものを見つけるたら、飼い主や里親には、このペットは不妊手術済みだと思うけど保証はできないから、発情がないか観察して、もし兆候があったらまた連れてきてください。と言います。
「犬や猫にタトゥーを見つけると、いつも嬉しくなります。あれこれ迷ったり、彼らを危険にさらしたりしなくて済むからです」。
現在、フロリダ州インヴァネスにあるシトラス・カウンティ・アニマル・サービスの獣医師であるミエロ博士は、将来的に研究を拡大し、不妊去勢手術済みタトゥーに関しての飼い主の受け取り方や、術済みの犬猫が再手術に持ち込まれる割合を調査し、数値化したいと考えている。
写真提供 Lauren Blackwelder; Sara White; Chrissy Sedgley; Brandy Jones; Stacy Dykema
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