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論文|スペイ ベッツ ジャパン
Researches and Studies
調査研究
An Inconvenient Truth: Targeted TNR Enjoys a Track Record Unmatched
by Lethal Methods for Managing Free-Roaming Cats
野外で生息する猫の個体数管理は、
殺処分よりも「的を絞ったTNR」の方が
比較にならないほどの功績を残している
ピーター・J・ウォルフ、G・ロバート・ウィードン
Peter J. Wolf , G. Robert Weedon
野外で生息する猫の個体数管理は、殺処分よりも「的を絞ったTNR」の方が比較にならないほどの功績を残している
解説
TNRがダメだというなら、何が効果的だというのか?

野良猫の殺処分 VS TNR の論争は長きにわたり繰り返されてきました。
しかし、過去に猫の根絶や除去を目指した駆除で効果的だったという結果はほとんどなく、一方でTNRでは、高密度で行えば顕著な効果が出るというモデル研究結果や、実際にシェルターでの殺処分減少や野良猫の個体数の減少が結果として実証されている(当会で紹介したNo.04/05の資料を是非ご覧ください)ことを、過去の実際のTNR反対事例や駆除事例も併せて紹介したこの資料は、TNRの有用性を強く支持する内容になっています。

フロリダ大学SNSで、「是非読んでほしい」資料として紹介されたこの記事に、私達も強く賛同しています。是非、全文をご覧ください!
昔から、「捨て猫」はシェルター施設の猫収容数のかなりの割合を占めており、95%を超える数字を報告している機関もある。近年のデータではかなり減少しているが、シェルター施設に収容される猫の大半は、依然として「捨て猫」に分類されるのが一般的である。収容された猫に殺処分以外の処分をもたらすことは、アメリカの複数地域において依然として課題であるが、ここ数十年、的を絞ったTNRプログラムを導入したことで、目覚ましい成果を上げるようになった。

とはいえ、最近『Biological Invasions』誌に掲載された評論家は、「地方、州、国の政府機関は、(強制力をもって)野外でのエサやりを禁止し、個体数管理の手段と称するTNRを終わらせるべきだ」と主張している。Lepczykらは、このやり方が「野外の野良猫の個体数をうまくコントロールする」ために重要だと主張しているが、TNRの禁止が個体数をコントロールする目的を達成できるという根拠はどこにも示していない。

このような自然保護団体のメンバーからのTNRへの反対意見は、今に始まったことではない。2010年、同じ著者の数名が『Conservation Biology』誌に書簡を発表し、野生生物および自然保護団体のメンバーらに対し、野良猫のコロニーやTNRを許可または促進するために打ち出された政策に異議を唱えるよう呼びかけた。この記事が掲載されて以来、自然保護団体のさまざまなメンバーがまさにそれを実行に移し、少なくとも1回は猫に毒を盛るべきだと公言した。

しかし、健康な動物をシェルターに収容し殺処分することへの倫理感、(殺処分を実行する)シェルタースタッフに係る(心理的)影響、公的支援に依存する政策立案者への影響をさて置いたとしても、TNR(による野良猫の管理)に代わる実現可能な(野良猫管理)方法を想像するのは難しかった。もっと率直に言えば「TNRでなくて何なのか?」。健康な猫を無差別に殺処分することは、それが効果的であるという証拠がないにもかかわらず、アメリカでは100年以上にわたって既定の「管理」手法となってきた。1985年の間だけでも、推定780万~1,290万頭の猫がシェルター施設で殺処分された。実際、殺処分によって野外で生息する猫の個体数を管理しようとする試みは、しばしば逆効果であることを示唆する経験的証拠も増えつつある。

【猫の根絶キャンペーン】
猫を(殺処分により)根絶しようとする取り組みが成功したのは、比較的小さな海洋島においてのみであり、それさえも裏目に出たことが知られている。このことは、数学的モデリングと経験的証拠の両方で実証されている。猫が根絶された最大の島である無人島マリオン島(290km2)では、19年にわたり、猫汎白血球減少症、毒殺、狩猟、捕獲、犬などを駆使して、猫の根絶キャンペーンが実施され、推定2,100~3,400頭の猫が駆除された。(過去に猫の狩猟対象となっていた)海鳥のなかには、すぐに生息数が回復した種もあれば、猫根絶後のネズミの大量繁殖により、(ネズミの狩猟対象となったため)頭数の回復が見込めない鳥獣種もいた。島で最初に猫が殺されてから約50年後の2024年には、ネズミを根絶する計画が立てられている。同様のシナリオがオーストラリアのマッコーリー島(127km2)でも展開された。

アメリカでは、根絶キャンペーンが真剣に提案されることはめったにない。しかしながら、2022年の立法会期中に提出されたハワイ州下院法案1987は、同州の国土天然資源省と外来生物審議会に権限を与えようとするものだった: 「2025年12月31日までにカウアイ島、マウイ島、ハワイ島における野良猫の個体数を絶滅させる」。そしてその後の広範な証言(その大半は強い反対意見だった)の結果、上記法案は最初の委員会公聴会を通過することなく終わった。

【猫の除去】
猫の完全な根絶を求める声よりもはるかに一般的なのは「除去」を求める声であり、計画的な間引きを実行するか、公衆衛生上の問題や迷惑行為等に起因するとみなされる猫に対する殺処分を行う管理方法である。上述のハワイ州下院法案1987は、ハワイ諸島の3つの島から猫を絶滅させることを目的としていたが、オアフ島については、2025年12月31日までに個体数を50%減少させるという控えめなものであった。しかし、公衆衛生や野生動物を保護するためであれ、迷惑行為に起因する苦情対応であれ、猫の殺処分はしばしば効果がないことが証明されている。例えば、タスマニアで活動している研究者たちは、「野良猫の低密度のその場限りの殺処分」は、その数を減らすのに効果がなく、「テリトリーを牛耳る猫が駆除された後には更に新しい(成猫の)個体が流入する」ために、実際には個体数増加につながる可能性があることを発表した。ニューカレドニアで行われた、高密度な除去に関する調査によると、38日間で36頭(10.6km2の推定個体数の44%)の猫を除去したにもかかわらず、わずか3ヵ月後には「野良猫の相対的な生息数と密度に意味のある違いは観察されなかった」とされている。動物関係機関による猫の引き取り(例えば、迷惑行為に起因する苦情対応)が、詳細な追跡調査を行うことはほとんどないが、このような取り組みが有意義な個体数削減を達成した事例はない。実際、多くの場合、今主流となっている不妊化措置(による野良猫の個体数管理)は、長年にわたる駆除政策の失敗から習って実施されたものである。根絶や除去による政策の失敗に関する記述が十分に文書化される中、TNRの利点を評価することは難しいことではない。

【TNRに対する反対意見】
TNRに対する反対意見が、根絶キャンペーンや除去のような直接的かつ速攻性のある個体数管理ではないのは明らかである。しかし、TNRの努力を妨げたり、それを全面的に禁止したりすることは、兼ねてより致命的な結果を招いている。

最近のコンピューター・モデリングによれば、「殺処分による除去」は(野外に生息する)猫の数を最大かつ最速で減少させるが、それは一貫して高い密度で実施された場合に限り、引き取りではなく殺処分をすることに費用を充て、地域社会で通常実施されるよりも高密度で実施された場合にのみ効果が期待できるとされている。そして、これまでの例が示すように、必要な密度を欠いた「殺処分による除去」は、長期にわたって継続しても効果がないことが分かっている。「殺処分による除去」とは対照的に、「TNR」は十分な期間にわたってより高い密度で実施すれば実行可能で費用対効果も高くなる可能性があることがモデル研究で示された。実証的な証拠がこれを裏付けており、的を絞ったTNRでは、猫の収容やシェルターでの殺処分が顕著に減少していることに加え、個体数の顕著な減少も見られている。そして、「殺処分による除去」とは異なり、TNRは幅広い社会的支持を得ている。さらに、TNRは猫を元いた地域に戻すことで、特に社会から隔絶されてきたようなコミュニティにおいて、従来の保護活動に共通する不公平感を緩和するものであり、また、地域猫の世話人が地域猫と強い絆で結ばれていることを認識するものである。

とはいえ、TNRへの反対意見は様々な形で未だ根強く残っている。2008年のロサンゼルス市に対する訴訟の結果、市のTNRプログラムが一時的に停止されただけでなく、市の職員がこのようなプログラムについて議論すること、あるいは地元の非営利団体を通じてTNRに関する情報を住民に紹介することさえも禁じる差し止め命令が下された(2020年に解除)。2016年、ニューヨーク州公園・レクリエーション・歴史保存局は、ジョーンズ・ビーチ州立公園で長年続けられてきたTNRプログラムに参加していた23匹の猫を処分することに合意し、訴訟を終わらせた。私たちは、上述の法的紛争が鳥類やその他の野生生物を保護するという謳い文句の目的を達成したという証拠を知らない。実際、入手可能な以下の証拠によれば、この政策も裏目に出ている可能性が高い。ロサンゼルス・アニマル・サービスから入手したデータによると、差し止め命令が出されている間、同シェルターの幼齢猫の収容が大幅に増加し、2010年の8,818匹から2019年には13,000匹以上に増えている。

2018年、ハワイ州土地天然資源局は、ホノルルが提案した「野良猫」の不妊手術のための30万ドルの予算配分に反対する証言を行ない、同局が代替案を提示しなかったこともあり、この予算は全会一致で承認された。また、TNRの取組みに「実施後の厳格なモニタリング」を求めることで資金削減を図るという、少し違ったアプローチをとった者もいた。実施後のモニタリングは、野外に生息する猫の個体数を定期的に調査することでプログラムの効果を実証する貴重なデータを得ることができるが、(実際、)アニマルシェルターが必要な専門知識を有していたり、専門知識を有する者を雇う資金を有していたりすることは稀である(「殺処分による除去」における議論では、その効果を評価するためのモニタリングが求められたことはない。これは、「TNR後の厳格なモニタリングを行うべき」という懸念が本当にどれほど重要なのかという疑問を提起している)。

TNRの努力を台無しにする最も一般的な方法は、おそらく餌やり禁止である。これは、猫はエサがなければ散るだろうという考えに基づいた政策介入である。しかし、TNRプログラムを成功させるためには、野外に生息する猫に定期的にエサを与えることが重要で、(エサをやらないことは)根絶や除去キャンペーンと同様、その影響が逆効果になる可能性が高い。人間の近くに住み、(意図的かどうかにかかわらず)エサを与えられている可能性が高い猫は、より田舎やあまり騒がれていない地域に住んでいる猫(そのような地域はエサが豊富でない可能性が高い)よりも、捕獲するのがはるかに容易である。そして資源の豊富な都市部には、アメリカ国内の野外で生息する猫の75%が生息していると推定されている。さらに、野良猫と思われる猫に餌を与えることは、全米でよく見られる行為で(調査によって10~26%、)、エサやり禁止令の施行が課題となることが分かる。また、定期的に餌を与えられている猫は、餌を与えられていない猫よりも野生動物を殺す可能性が低いという研究結果も注目に値する。

【結論】
Lepczykらが行なったように、TNRを「効果はないが、政治的に有利な政策オプション」として切り捨てるのは間違いなく容易であるが、それは、それとは反対の証拠が増えつつあることを無視すれば、の話である。実際、著者らにとっても、このような証拠(TNRにより効果的な個体数の削減が実証された事実)を完全に無視することは難しいことがわかった。著者が効果的な個体数削減の唯一の例として挙げているのは、市を挙げてのTNRプログラムである。

ここに示された証拠からも明らかなように、致死的な方法を用いて野外に生息する猫の個体数を管理しようとする取り組みは、TNRプログラムを弱体化させようとする取り組みと同様、しばしば見当違いで逆効果であることが分かった。明らかに、TNRを弱体化させようとする取り組みは猫の福祉にとって有害であり、個体数の増加に伴って健康な猫の殺処分が大幅に増加する可能性が高い。また、入手可能な証拠から考えても、そのような取り組みが野生生物や公衆衛生に役立つとされる理由もほとんどない。それどころか、猫の福祉を向上させ、野外に生息する猫の個体数を減らし、ひいては野生動物や公衆衛生を守るための的を絞ったTNRがしばしば唯一の実現可能な選択肢であることが、はっきりと示されているのだ。
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