Spay Vets Japan | スペイ ベッツ ジャパン | 繁殖予防に特化した早期不妊去勢手術専門の獣医師団体

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論文|スペイ ベッツ ジャパン
Researches and Studies
調査研究
A Survey of Veterinarian Attitudes Toward Prepubertal Desexing
of Dogs and Cats in the Australian Capital Territory
オーストラリア首都特別地域における犬や猫の
性成熟前不妊去勢手術に対する獣医師の態度に関する調査
Bronwyn Orr , Bidda Jones
オーストラリア首都特別地域における犬や猫の性成熟前不妊去勢手術に対する獣医師の態度に関する調査
解説
本文献は、2001年からオーストラリアの一部地区で犬や猫の性成熟前不妊去勢手術が法的に義務付けられたにもかかわらず、2017年9月における現地調査で、手術が十分に浸透していないことが判明したことについて考察された文献です。

日本においても動物愛護にかかる法規制は十分とは言えず、安易な考えの飼い主による飼育放棄に対する引き取り拒否要件や虐待に対する罰則等は強化されたものの、現場での過剰繁殖問題は未だ歯止めがきかない現状があります。

現場からは、法律を更に厳しくとの声もよく耳にします。しかし、当該論文の結論にもあるように、どんなに立派な法規制が存在していたとしても、実際に現場にいる当事者(獣医師、猫に関わるボランティアやその他関係者)が問題点を正確に整理し、どうすれば最も効率的に犬猫の過剰繁殖を抑制し、適正飼養を推進できるのか、法規制に至った背景の有用性と必要性をきちんと理解することが大事だと考えます。当事者らが実現に即した形で頭の中をアップデートしていかなければ、過剰繁殖の制御に向けた法規制もしょせん絵に描いた餅に終わってしまうという現実が当該文献に記されています。

この文献を受けSpay Vets Japanは、とても興味深い文献だと感じました。日本における犬猫の不妊去勢手術、とりわけ早期不妊去勢手術の効率的な浸透は本会の重要なミッションの一つです。獣医師を筆頭とした現場当事者らの知識のアップデート、啓発活動及び情報発信は必要不可欠であり、SVJは最新の知見を基に、情報発信により力を注いでまいりたいと考えております。
【論文要約】
犬や猫の性成熟前避妊去勢手術に対する獣医師の態度について
Bronwyn Orrと Bidda Jonesによる“A Survey of Veterinarian Attitudes Toward Prepubertal Desexing of Dogs and Cats in the Australian Capital Territory”「オーストラリア首都特別地域における犬や猫の性成熟前避妊去勢手術に対する獣医師の態度に関する調査」という論文で、オーストラリアの一部地域で犬や猫の「性成熟前不妊去勢手術」(prepubertal desexing :PD)が法的に義務付けられたにもかかわらず、思うように手術が普及していないのは、獣医師の意識がアップデートされていないからではないかという報告があります。

【背景】
オーストラリアにおける犬猫の不妊去勢手術は伝統的に5~9か月齢で実施され、多くは6か月齢までに実施されます。一般の動物病院では伝統的な時期に実施されますが、それでは特に猫は性成熟を迎えてしまいます。そこでアニマルシェルターなどにおいてはPDや早期不妊去勢手術(early age desexing :EAD)が実施されていますが、一般的ではありません。

【PDとEAD】
この論文では“PD”と“EAD”という用語が用いられています。両者は多くの場合ほぼ同じ意味で用いられていますが、厳密に言うと少し違います。つまり

  • ・PD:最初の発情が来る前に不妊去勢手術を行うという考え方で、一般的に猫は4か月齢まで、犬は7か月齢までに実施されます。
  • ・EAD:安全に手術ができる大きさになれば出来るだけ早く不妊去勢手術を行うという考え方です。猫は6週齢以降かつ体重800g(雄)、1000g(雌)で実施され、犬も6週齢から実施されますが、体重が1000gに達するまで待つのが一般的です。


【2000年家畜法】
オーストラリア首都特別地域 (Australian Capital Territory's : ACT)(キャンベラおよび周辺地域)では“Domestic Animals Act 2000”(2000年家畜法)の第74条の規定により、2001年から犬や猫のPDが義務付けられています。当初は犬も猫も生後6か月までの不妊去勢手術が義務付けられていましたが、2007年の法改正により猫については生後3か月までの不妊去勢手術が義務付けられました。
ところが、ACTにおいては2001年から犬猫の不妊去勢手術が義務付けられているにもかかわらず、ACTに所在するRSPCA(「英国」動物虐待防止協会)のアニマルシェルターに入ってきた成犬の47.4%、成猫の41.2%しか不妊去勢手術が実施されていませんでした。これはいかがなものか、というのがこの研究のきっかけです。

【調査結果】
この研究結果によると、ACTにおける多くの開業獣医師はPDの有用性については理解しているものの、猫の3か月齢までの不妊去勢手術については90%以上の獣医師が推奨していませんでした。犬の6か月齢までの不妊去勢手術については、2割の獣医師しか推奨していませんでした。また法規制について完全に理解していた獣医師は12%にすぎませんでした。

【結論】
なぜ獣医師がPDの有用性を認めながらもPDに及び腰なのか、残念ながらこの論文ではその原因にまでは踏み込んではいません。しかしその原因になり得る獣医師の認識についてはいくつか例示されています。つまり

  • ・麻酔や手術の安全性への懸念
  • ・長期的な医学的または行動上の問題への懸念
  • ・低血糖や低体温のリスク増大への懸念
  • ・獣医師が伝統的な不妊去勢手術に慣れている

「慣れ」の問題はさておき、その他の懸念についてはAVMA(米国獣医師会)の文献レビューで考察されているとおりです。
つまりどんなに立派な法規制が存在したとしても、実際に執刀する獣医師の頭の中がアップデートされていなければ絵に描いた餅に終わるということです。
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