Effect of high-impact targeted trap-neuter-return and
adoption of community cats on cat intake to a shelter
「地域の猫」の高負荷一斉TNRと譲渡が
シェルターの受入れに及ぼす影響について
ジュリー・K・レヴィ―(獣医学博士、フロリダ州立大学教授)他
J.K.Levy , N.M.Isaza , K.C.Scott
解説
猫の収容数が多い地域だけに絞って集中的に2年間TNRと保護を行った結果、その地域からの収容数が大幅に減少した、という研究内容です。
全く同様の内容で日本でプロジェクトを行うには多くの課題がありますが、TNRの費用と労力を漠然と広い地域に行うのではなく、地域を絞って計画的にTNRを行うことこそが、野良猫ならびに収容数を減らす方法だと示すことができた、とても興味深い検証実験だと思います。
Spay Vets Japanでは、本検証実験を1つのモデルとし、日本でも同様の検証実験ができないかと考えております。科学的にTNRを行うことで野良猫が減ることが示し、日本での
TNR活動への信頼度を向上させたいと考えています。
【論文の概要紹介】
「地域の猫」の高負荷一斉TNRと譲渡がシェルターの受入れに及ぼす影響について
※Community catsは、飼い主の有無や人馴れの有無を問わず、地域の野外で自由生活している猫を指す包括的な概念です。日本の「地域猫」とは概念が異なるので注意が必要です。
「地域の猫」を捕獲し、不妊去勢手術を行い、ワクチン接種ののちに元の場所に戻す活動(Trap-neuter-return (TNR))が一定の地域において猫のコロニーを縮小させることは多数の研究によって示されています。しかし、TNRがどの程度の範囲で効果を維持できるのか、また、シェルターへの収容数減につながるのかについてはまだ示されていませんでした。
本研究は、フロリダ州内のシェルターの猫収容数が多い都市部一帯の地域において、2年間集中的に高負荷TNR(毎年住民1,000人当たり約60匹、「地域の猫」のおよそ50%に対するTNR)を行いました。そして対象地域のシェルターへの猫の収容数の増減傾向を、介入前5年間および今回の集中TNRの2年間について、高負荷TNRを実施していない地域と比較検証を行いました。
この研究によって、対象地域における飼い主のいない「地域の猫」は猫全体のほぼ半数を占めていることが判明し、2年間の集中的な地域への働きかけ、大量のTNRおよび譲渡の実施により、シェルターの収容数が2年間で66%減少したことが分かりました。更に、プロジェクトの地域教育により犬の管理にまで住民意識が高まった結果、猫の程顕著ではありませんが、犬の収容数を予想外に減らすことができた、という嬉しい副次効果もありました。
収容数の減少は、不妊去勢手術による妊娠・出産の減少、繁殖行動に関連する猫による迷惑行為の減少、および収容に代わる手段への誘導等、複数の要因によるものと考えられます。特に、TNRプログラムの中で人馴れした猫を引き取ることは、地域内の野良猫の数を迅速に減らすことができる最も具体的な方法の1つと考えられます。
既存のTNRプログラムは個人の活動に限定されており、対象地域を絞ったものでもなく、これまで毎年約2,000匹(1,000人当たり約8匹)程度の低負荷TNRでした。これは、特定のコロニーやそこに属する猫の管理の点では有利ですが、シェルターの猫の収容数を広域にかつ大幅に減少させる目的を達成するには不十分であるといえます。
シェルターへの受け入れと猫による迷惑行為の苦情等データを追跡して高負荷のTNRを目指すことは、TNRの限られた資源を漫然と展開するよりも、猫の収容数を早く減らすことができる手段であると考えられます。