Spay Vets Japan | スペイ ベッツ ジャパン | 繁殖予防に特化した早期不妊去勢手術専門の獣医師団体

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論文|スペイ ベッツ ジャパン
Researches and Studies
調査研究
A Long-Term Lens: Cumulative Impacts of Free-Roaming Cat Management Strategy
and Intensity on Preventable Cat Mortalities
長期的展望:野良猫の管理方法とその実施密度が
猫の「防ぎえた死」に及ぼす累積効果について
ジュリー・K・レヴィ―(獣医学博士、フロリダ州立大学教授)他
Frontiers in Veterinary Science 26 July 2019号
精巧なシミュレーション
解説
TNRまたは殺処分など、数パターンの野良猫の管理方法について、精巧なシミュレーションソフトを用いて、10年間で予防できたと思われる野良猫の死亡数と、10年後の個体数に与える影響を検証した、フロリダ大学でコミュニティーの猫の繁殖管理について専門に研究されているジュリー・K・レヴィ―教授とその共同研究者らがまとめた論文です。

獣医師が、効果の得られるTNRの方法を科学的に検証した初めての研究です。
TNR活動の効果が社会的に認められ、その認知度と信頼度を更に高めていくため、活動に対して成果が伴う方法を実施する必要があり、その方法を科学的に考察してガイドラインを作成することは獣医師の任務であると当会は考えています。

「高密度(定期的に75%の)で行うTNRは、10年の間に亡くなる仔猫の数を圧倒的に減らすことができ、個体群サイズの縮小に繋ぐことができるが、低密度(定期的に25%)のTNRでは、猫の繁殖力に手術が追い付かず、常に仔猫たちは高死亡率にさらされ、個体群縮小効果も望めない」

という、TNRの効果を肯定しながらも、高密度で行わないと成果が出ないと断定した本研究結果は非常に興味深く、我々がTNR活動のガイドラインを考察するうえで是非組み入れるべきだと考えています。
理論上効果的とされる方法で実際にTNR活動を行い、成果の見られた活動の生の観察データを集積し、活動の社会的信頼度を高めて活性化させていくことも、本会の重要なミッションです。
【論文の概要紹介】
当該研究では、精巧なシミュレーションソフトを用い、以下の7通りの野良猫の管理方法が野良猫の死に及ぼす10年間の影響を検証しています。

  • (1)何もしない
  • (2)低密度の除去(※1)
    【6カ月ごとに25%を除去する】
  • (3)高密度の除去
    【6カ月ごとに50%を除去する】
  • (4)低密度の散発的間引き(※2)
    【苦情があったときだけ25%除去する】
  • (5)高密度の散発的間引き
    【苦情があった時だけ50%除去する】
  • (6)低密度のTNR(※3)
    【6か月ごとに25%TNRする】
  • (7)高密度のTNR
    【6カ月ごとに75%TNRする】


※1 除去:別の場所に移す方法
保健所職員によって行われる定期的な野良猫の殺処分や保護を想定
※2 散発的間引き:猫が一定数に達するまで放置し、達した時点で安楽死を行う方法
猫の迷惑行動に対する近隣からの苦情やその他の懸案事項に応えて保健所職員が行う散発的な間引きを想定
※3 TNR:猫を捕獲・不妊去勢手術・元の場所に戻す方法


検証では、子猫の死亡数と成猫の殺処分を「防ぎえた死」と定義(何らかの管理方法でその数を減らせる可能性があるものとして定義)し、上記(1)から(7)の管理方法で10年間のシミュレーションモデルを作成し、除去された猫の数、不妊去勢手術が施された猫の数、子猫の出生数、自然死数と「防ぎえた死」の数を記録し、10年後の「防ぎえた死」の累積数と個体群サイズの比較が行われました。

シミュレーションの結果、どの管理方法においても、「何もしない」群よりは「防ぎえた死」の数が少なくなることが示され、低密度より高密度で管理を実施する方が、「防ぎえた死」の数を抑えられることが分かりました。特に、(7)高密度のTNR群における「防ぎえた死」の数が最小で、(1)何もしない群と比較して31倍の差が確認されました。さらに、(7)高密度のTNR群では、子猫の出生率と死亡率を97%まで下げることも明らかとなり、「防ぎえた死」を最小にとどめ、繁殖抑制には最も効果的な方法であると示されています。
一方で、(3)高密度の除去群及び(6)低密度のTNR群でも「防ぎえた死」を75%まで減少させる結果が示されましたが、これら2つの管理方法では子猫の出生率と死亡率が(7)高密度のTNR群と比較して高いことも分かりました。
「防ぎえた死」の大半は子猫の死が占めており、どの管理方法においても子猫の生存率は13%から25%となっています。


図説
※図説
個体群サイズについては、(3)高密度の除去群で86%の縮小を示し、(2)低密度の除去群と(7)高密度のTNR群で元の数のおよそ半分まで縮小、(6)低密度のTNR群ではおよそ20%の縮小が示されました。(4)(5)の間引きによる管理方法では、実施密度に関わらず個体群の縮小は見られませんでした。


図説
※図説
猫は本来の高い繁殖力によって、環境収容力の限界まで繁殖を繰り返し、子孫を残し続けます。当該シミュレーションでは、TNR活動を含むその他の管理方法が、猫の個体群サイズや次世代の猫にどのような影響を及ぼすかを検証しています。その結果、高密度でTNRを実施することが子猫の死亡数を減少させるのみならず、個体群の縮小をも十分に見込むことができると結論づけ、その他の管理方法(低密度のTNRや殺処分を含む除去)も個体群サイズを縮小させるのには効果的なものもありますが、「防ぎえた死」の総数が高いことを鑑みて総合的に効率的ではないと主張しています。


イメージ図
※イメージ図
※低密度のTNRでは猫の繁殖力に手術が追い付かず、産まれた大量の子猫が高い死亡率にさらされ続け、効率的な個体群縮小効果は望めません。


イメージ図
※イメージ図
※間引きにおいては、子猫の死亡を防ぐことも、個体群サイズの縮小にも効果が見られません。


イメージ図
※イメージ図
【まとめ】
野良猫の管理方法は、個体群への影響・猫の動物福祉・野生動物への影響・費用対効果・倫理・実用性・管理のしやすさ・成功の見込み・政治的支援・地域の支持など、多様な地域性に見合った方法を柔軟に検討する必要があります。動物愛護団体等が野良猫に対する方針や管理のための目標・戦略を立てる際には、広い視野を持ち、目の前の野良猫の数をただ減らすことだけに注力するのではなく、子猫の死亡率を最小限に抑えることができるTNR活動を高密度に実施していくことが推奨されます。

当該シミュレーションモデルは高密度のTNR活動が結果的に「個体群の縮小」と「子猫の死亡率の減少」両方の目標を達成できると結論付け、加えて、遺棄を減らし譲渡を組み合わせることが、その効果をさらに高めるだろうと主張しています。この結果を今一度共通認識とすることで、地域における様々な立場の方との協働の取り組みが容易になるのではないでしょうか。

現在、猫の個体群管理をするに当たって「ターゲット」を絞り込み、活動を集中させるというコンセプトを奨励するTNR専門家も存在します。適切な手法と手順でその成果や結果を適切に測りながら、より一層の考察を深め、最善の方法を模索し、評価が行われることに期待します。
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